· パイロットの目  · 11 min read

経験こそが価値となる時代になった。

最近、AIを使ってコーディングの世界に足を踏み入れました。 驚きました。プログラミングのスキルなんてありません。技術的な知識もない。でも、「こういうものを作りたい」と伝えるだけで、自分がやりたかったことが一気に形になっていくんです。 今まで「専門家じゃないと無理」と思い込んでいたことが、自分の言葉だけで実現できてしまう。


やりたいことが、一気に形になる興奮

最近、AIを使ってコーディングの世界に足を踏み入れました。

驚きました。プログラミングのスキルなんてありません。技術的な知識もない。でも、「こういうものを作りたい」と伝えるだけで、自分がやりたかったことが一気に形になっていくんです。

今まで「専門家じゃないと無理」と思い込んでいたことが、自分の言葉だけで実現できてしまう。

必要だったのは、スキルでも技術でもなく、「これを作りたい」「こうしたい」という自分の中の欲求と創造性だけでした。

正直、興奮しました。

でも——しばらく使っているうちに、ふと立ち止まることがあったんです。

「俺、ちゃんと自分で考えてるのか?」


AIに正直にぶつけてみた

自分の考えを伝えると、あっという間に整理されて、きれいな文章になって返ってくる。資料を調べてもらえば、何時間もかけていた作業が数分で終わります。

便利です。間違いなく便利です。

でも、考えるために必要な知識や資料やデータ——そのデータベースの役割をAIがやってくれているとしたら、私たちの「考える」って、そこから何を引き出して組み合わせるかだけのことになっていないだろうか。

正直にAIにぶつけてみました。「自分で考えるということが、なんか疎かになっている気がする」と。

返ってきた答えが、なぜか妙に腑に落ちたんです。

要約するとこういうことでした。

「データベースから引き出して組み合わせるだけなら、それはAIが最も得意なことです。でも人間の”考える”はそれとは違う。考えるの出発点は、”何かおかしい”という違和感。その違和感を持てるのは、経験と身体を持った人間だけです。」


身体が「おい、ちょっと待て」と言う

これを読んだとき、パイロット時代のことが一気に蘇ってきました。

計器の数値は正常。チェックリストも完了。マニュアル通りに進んでいる。

でも、なんか引っかかる。

言葉にできない。データで証明もできない。でも、身体のどこかが「おい、ちょっと待て」と言っている。

30年間飛んできて、この「なんか引っかかる」に何度救われたかわかりません。

逆に、この感覚を無視したときに限って、ヒヤリとする場面が生まれていました。


データベースの外側にあるもの

考えてみれば、この「引っかかり」はデータベースの中にはありません。マニュアルにも書いていない。AIに聞いても出てこない。

何千回と着陸して、何百回とトラブルに対処して、身体の中に積み重なったものからしか、この感覚は生まれてこないんだと思います。

AIは「何かおかしい」とは感じません。自分の判断が浅くなっていることに不安を覚えたりもしない。

でも人間は感じる。

この「感じる」が、考えるの出発点なのだとしたら——

経験を重ねた人間ほど、「考える力」を持っているということになるのかもしれません。


「お荷物」の逆転

世の中では、年を重ねることが、なんだか「お荷物」のように扱われることがあります。

新しい技術についていけない。デジタルに弱い。時代遅れ。

そんなふうに見られている方も、少なくないんじゃないでしょうか。

でも、AIが知識やデータを一瞬で引き出してくれる時代になって、実は逆転が起きているように感じています。

知識は、もう誰でもAIから引き出せます。

でも、「この状況、なんかおかしくないか?」と感じる力は、経験からしか生まれてこない。

「このデータ、本当にそうか?」と疑える感覚は、何度も失敗して、痛い目を見て、身体で覚えたものからしか出てこないように思います。


経験とは、失敗した数のこと

じゃあ「経験」って、具体的に何なのか。

私は、失敗した数だと思っています。

成功体験ばかり積み重ねても、身体には何も残らない。「なんかおかしい」と感じる力は、うまくいかなかった回数の分だけ磨かれていくんじゃないでしょうか。

着陸をしくじった。判断を間違えた。審査で低い評価をもらった。チームをうまくまとめられなかった。

そういう一つひとつの痛みが、身体の中にデータベースとは違う何かを積み上げていく。言葉にはならないけれど、次に似た状況が来たとき、身体が勝手に反応してくれる。あの「引っかかり」の正体は、たぶんそれです。

AIには失敗がありません。だから「引っかかり」も生まれない。

失敗を恥だと思っている方もいるかもしれません。でも、その失敗の数こそが、AIには絶対に持てない「問いを立てる力」の源になっているんだと思います。


水に落ちないと生まれない問い

70歳でウィングフォイルを始めました。

水の上で何度も落ちて、バランスを崩して、身体が「あ、こういうことか」と掴んでいく。

これはデータの検索と組み合わせじゃありません。身体を通して、新しい「問い」が生まれる体験です。

「なぜ今バランスを崩したのか?」「風をどう感じればいいのか?」

この問いは、YouTubeの解説動画を100本見ても出てきません。自分で水に落ちないと生まれないんです。


「問い」を立てられるのは、自分だけ

AIの時代に、「考える」とは何か。

それは、データベースから答えを引き出すことじゃないような気がしています。

自分の経験と身体を通して、「問い」を立てること。そしてその問いと格闘するプロセスそのものなんじゃないかと。

AIはその格闘の中で使う道具であって、格闘の代わりにはならない。少なくとも、自分にとってはそう感じています。


経験は、AI時代の最大の資産

だから、年を重ねたことを恥じる必要なんてないんじゃないでしょうか。

むしろAIが出てきたおかげで、経験の価値がはっきり見えるようになったのかもしれません。

知識はAIが持っています。データもAIが整理してくれます。

でも、「何を問うべきか」は、自分の中にしかない。

30年、40年と積み重ねてきたもの——その大半は失敗ですけど——それが、今ようやく本当の意味で武器になる時代が来ているように感じています。

経験は、お荷物なんかじゃありません。

AI時代の、最大の資産なんじゃないかと思うんです。

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