· パイロットの目 · 10 min read
他人に評価されようとした瞬間、すべてが崩れ始めた
機長になっての最初の審査は、完全に余裕のない操縦をしていると、印象づける格好になってしまったのです。 その日は横風で気流が悪く、少し追い風の着陸であったため、私の前に着陸する便が、滑走路の端の方まで行って、滑走路から出ることになってしまいました。 このまま進入すると、着陸の許可がぎりぎりのタイミング...
不合格になならなかったが
機長になっての最初の審査は、完全に余裕のない操縦をしていると、印象づける格好になってしまったのです。
その日は横風で気流が悪く、少し追い風の着陸であったため、私の前に着陸する便が、滑走路の端の方まで行って、滑走路から出ることになってしまいました。
このまま進入すると、着陸の許可がぎりぎりのタイミングとなり、もし滑走路から前の機体が完全に出るのが間に合わなければ、もう一度進入のやり直しをしなければならなくなってしまうのです。
そうなると、30分以上の遅れになってしまいます。
「早く出てくれ!!」と叫びそうになってしまいました。
ギリギリのタイミングで、なんとかしっかり出てくれて、スムースな着陸はできたのですが、その後のブリーフィングでは、プランニングの悪さ、余裕のなさを指摘されました。
「着陸の技術は悪くないので、不合格にはしないが…」
「要フォロー」という審査結果となったのでした。
「要フォロー」—機長人生の終わりが見えた瞬間
「要フォロー」とは一定期間、指導する機長と共に飛行して教育されるということです。
もう機長を辞めようと思う日々が始まるのでした。
後悔という名の地獄
あの審査の後は、「なんであんなことをしてしまったのだろう」という後悔ばかりでした。
その夜から、夜中にガバッと飛び起きることもしばしばで、あの時の感情と操作が蘇ってくるのでした。
機長となり、審査で低い評価をされるのは、ひじょうに恥で、自分の経験を全否定されている様な気分でした。
地獄の指導が始まった
私を指導する機長は、ブリーフィングを2〜3時間、長い時は4時間近く、ホテルまでのタクシーの中、宿泊先のホテルでも延々と続ける人だったのです。
私の運航スタイルと全く違い、すべての操作、判断にことごとく、だめだしをされて行ったのです。
「だからお前はダメなんだ」という呪文
いつもブリーフィングで、彼はホワイトボードに四字熟語を書きます。
「この意味がわかるか?」
「いや、わかりません」
「だから、お前はダメなんだ!」
このやり取りが、フライトとは全く関係のない話で延々と続くのです。
実際の運行場面では、ちょっとした操作や、言葉にさえも次々と文句を付けられて行くのです。最初は、自分がウィークなのだからと盲目的に従っていました。
そういうことを続けていると、すべての判断基準を、彼の判断基準に合わせるように自分を曲げて行ったのでした。そして文句を言われないために操作するということが、主な操作や判断の根拠になって行ったのです。
洗脳のメカニズム
そして、フライトの度に、延々としたブリーフィングは続き、「だから、お前はダメなんだ」、「だから、お前はダメなんだ」というフレーズを繰り返し聞かされ続けたのです。
四字熟語を知らないことと、パイロットとしての技量に何の関係があるのでしょうか?
でも、毎回のように言われ続けると、だんだんと何をやっても、何を判断しても、ドンドン悪い方向にしか行かなくなってしまったのです。
ブリーフィング記録は、指導したことを書いて提出されるのですが、山のように指導項目が並び、どんどんと自信がなくなって来るのでした。
そのようなフライトを2〜3ヶ月続けていると、操縦の方もだんだんと自分のイメージ通りに行かなくなってきました。
客室乗務員からも、揺れてまったくサービスにならなかったです。と言われる始末です。
最後には、まともに、着陸ができなくなってきました。
「もうキャプテンはできない」かもしれないと真剣に思うようになってきました。
皮肉な事実
その指導教官は、確かに評価記録をびっしりと書いているので、会社からは「優秀な指導者」として一目置かれていました。
四字熟語は知っているかもしれませんが、肝心のパイロットとしての技量は人に教えられるレベルではありませんでした。
彼は他人を指導することで自分の存在価値を証明していました。
自分ができないから、人のできないが目につくのです。
書類には立派なことを書きますが、空で起こる現実的な問題に対処する能力は明らかに不足していました。
自信が崩れる本当のメカニズム
自信って、何かできるようになるということではなく、自分を信じるということだけなんです。
でも、それが崩れると雪崩のようにダメになっていく。
人の言うことを聞く、教わる、ということでどんどんダメになっていく。
まさに私がそうでした。
四字熟語を知らないことで「ダメな人間」のレッテルを貼られ、毎日それを言われ続けることで、本当にダメな人間になっていったのです。
教えたがる人の正体
優秀な人ほど、実は人に教えません。自分がまだまだだということを知っているからです。
本当に下手な人、自信のない人ほど、他人を指導することで自分の立場を保とうとします。
四字熟語を知っていることで、自分が知識人だと思い込んでいたのでしょう。
でも、空を飛ぶのに四字熟語は必要ありません。
自分を信じることの大切さ
自信喪失からの回復については、次回お話しします。
でも一つだけ。
どんなに偉そうなことを言われても、あなたの感覚を信じてください。
「これって本当に必要なこと?」と思ったら、それはきっと正しい。
四字熟語を知らないからといって、あなたの価値が下がるわけではありません。
自分を信じることから、すべては始まります。