· パイロットの目  · 11 min read

危うく落ちそうになった機長審査

機長昇格訓練の定期航空運送事業操縦士の免許を取る訓練。 人生がかかった勝負です。 まだ車も走っていない早朝5時、私は道路のセンターラインを歩いていました。ちょっとでもセンターからずれたら、素早くラダーを踏み込む。離陸直後のエンジン故障のイメージフライトです。 飛行機が浮く直前に片側のエンジンが止まります。

早朝のセンターライン歩きから始まった

機長昇格訓練の定期航空運送事業操縦士の免許を取る訓練。 人生がかかった勝負です。

まだ車も走っていない早朝5時、私は道路のセンターラインを歩いていました。ちょっとでもセンターからずれたら、素早くラダーを踏み込む。離陸直後のエンジン故障のイメージフライトです。

飛行機が浮く直前に片側のエンジンが止まります。

飛行機が浮くか浮かないかのとても不安定な時なので、傾けたり、踏み込みが遅れたりすると途端に不安定になってしまいます。

素早く故障したエンジンと反対のラダーを踏み込み、まっすぐ飛ぶようにします。

これを言葉で考えてしまうと、踏み込みが遅れたり、踏み間違えて機体が不安定になってしまいます。

とにかくセンターラインから外れないよう、自然と足が動く感覚を身につけるまで、毎日歩き続けました。

「教えてもらおう」は致命傷になります

エンジンの火災、エンジン故障、油圧系統のトラブル、燃料系統の異常。様々な緊急事態に対応するチェックリストを、何度も何度もイメージフライトで繰り返しました。

訓練は常に評価され、一回でも危険操作があれば即、訓練中止。

ここは演練する場ではありません。「これでうまくなろう」「教えてもらおう」なんて思っていると一発で落ちてしまいます。いかに訓練前に完璧に準備しておくかがすべてです。

映画とは正反対の現実

何度も何度もイメージフライトを繰り返すのですが、そこで大事なことは、全てがうまくいっている、スムーズに運んでいるイメージと操作を繰り返すことです。

ゆったりとした口調、トーンが変わらないコールアウト。視野が広く呼吸も穏やか。操作の時何が目に入り何を判断するべきなのか、全てをリアルに頭の中で想像しながら繰り返します。

映画のように大きな声で「エンジンフェイラー!!」「ライトエンジンフェイラー!」「スロットルアイドル!」なんて大声を出して素早く対応することなんてありません。

実際はこんな感じです:

「エンジンフェイラー」

「あ〜エンジン止まっちゃったね〜」

「右エンジンだよね」

「左は生きているから、左のスロットルを抑えてね」

「右スロットルを絞るよ、いいよね。これ右だよね、間違ってないよね」

そのためには、安定したフライトが欠かせません。

とにかく、相手にプレッシャーをかけないように、淡々とこなすことが求められます。

「できない」にこだわると永遠にできない

どんどんとシラバスが進んでいくので、それをこなすのがやっと。しかし、できないことにこだわっていてもいつまでもできないのです。

「できないことはできないな〜」と思って次のことに集中していると、いつの間にかできなかったこともできるようになっています。

できないことにフォーカスして努力してもうまく行かない。どんどんと違うことをやっていくうちに全てがつながってできるようになってくる。

これって、仕事でも同じかもしれませんね。

運命の審査当日

訓練も終盤。最後の審査に通れば、定期航空運送事業操縦士の資格を手にできます。

これに通るか通らないかで人生が大きく変わります。

私の副操縦士役の相手は、ベテランの副操縦士で私より年上でした。とにかく、ゆっくりと確実に操作をする人。訓練中は、そのおかげでミスもなく、なんとか二人で乗り切ってきたのです。

でも審査の時、次から次と襲ってくるエマージェンシーをうまくこなさなければというプレッシャーで、私は少しイライラしていました。

「何やってんだよー」という心の声

チェックリストをオーダーしても、ゆっくりとページを開け、一つ一つ確実にゆっくりと進めます。

「あーもう、ファイナルフィックスだ」

「スラットを下ろして、速度を調整しないと」

「ランディングギヤーも下ろさないと」

「あと2分もないよ」

「何やってんだよー」

心の中でつぶやいていました。

航空局の審査官は、二人の間に顔を近づけて成り行きを見ています。俺は時間管理をわかっているぞ、というアピールがしたかったのか、とにかく迫ってくる時間に焦っていました。

見失っていた機長の本当の役目

落ち着いて考えると、2分という時間は相当な時間です。2分間呼吸を止めようと思うと永遠に感じるほど。

操作が間に合わなければ、ホールディングを要求して、ゆっくりと操作する時間を作るのが機長の役目なのに、その時は操作をこなすことしか頭にありませんでした。

私のイライラが操縦席の中に蔓延していました。

なんとか、チェックリストを終え、速度調整もでき、着陸に向けての進入を開始できました。

1時間以上の沈黙

シミュレーターを降りてから、教官と審査官のブリーフィングがあります。

その中で、審査の判定を決められます。

普通は10〜15分程度で審査の評価と実機審査に向けた課題を話して、結果報告になるのですが、私の場合は30分経っても、1時間経っても出てきません。

だんだんとまずいな〜、落ちてしまったかな、とどんどん不安が増してきます。

1時間以上経って、教官と審査官が難しい顔をしてブリーフィングルームに帰ってきました。

審査官からの痛烈な一撃

「緊急事態という状況の中、確実に操作をしようとする副操縦士に対して、プレッシャーを与えるような態度をとる機長は、もってのほか。

今回、ミスが一つもなく済んだからいいが、一つでもミスがあれば、私はあなたを確実に落とします。

今回は、ミスもなく操作も適切にこなされていたので、次の実機の審査でまた見せてもらいます。今回のシミュレーターの審査は一応合格とします。」

首の皮が一枚繋がりました。私の教官が相当粘って説得してくれたのでしょう。

機長の責任とは何か

要するに、「ミスをさせるのは、コマンダーの責任。その責任をわかっていない人間は機長なんかになれない」ということだったのです。

部下の作業が遅くて、ついイライラした態度を取ってしまった時。家族が思うように動いてくれなくて、無言のプレッシャーをかけてしまった時。

でも本当は、相手がミスをしたり遅くなったりするのは、環境を整えられなかった私たちリーダーの責任なのかもしれません。

時間が足りないなら、時間を作る。プレッシャーがかかっているなら、そのプレッシャーを取り除く。

それがリーダーの本当の仕事だったのに、私はそれを忘れて、相手を責める態度を取ってしまったのです。

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