· パイロットの目  · 12 min read

なぜ理論通りにやってもうまくいかないのか?

「飛行機の操縦って、特別な才能が必要なんでしょ?」 そう思われている方も多いかもしれません。でも実は、誰でもできるように作られているんです。 ただし、そこには確実な理論と計算があります。 たとえば着陸。一見、パイロットの勘やテクニックに見えるかもしれませんが、実は緻密な計算の積み重ねなんです。

飛行機は誰でも操縦できる

「飛行機の操縦って、特別な才能が必要なんでしょ?」

そう思われている方も多いかもしれません。でも実は、誰でもできるように作られているんです。

ただし、そこには確実な理論と計算があります。

たとえば着陸。一見、パイロットの勘やテクニックに見えるかもしれませんが、実は緻密な計算の積み重ねなんです。

滑走路には、平らに見えても0.7%の勾配があります。1000m先で7mの高低差。この微妙な傾斜が、着陸時に機首を上げるタイミング(フレアー)を5〜6フィート変えてしまいます。

このタイミングを誤ると、ハードランディングで乗客に衝撃を与えたり、接地点が伸びて滑走路を飛び出す危険性さえあります。

着陸時には、こんなことを瞬時に計算しています:ちゃんと計算式もあるんです。

航空機の重量

飛行場の標高

気温

風の強さと向き

滑走路の摩擦係数

着陸地点の勾配

上空と地表付近の風の変化

機体特有の舵の効きの遅れ

これらすべてを組み込んで、滑走路の端を横切る速度を重量で決められた速度に合わせる。末端を通過した瞬間の速度と高度から、フレアーの開始高度、機首を上げる速度や角度、エンジン出力の絞り方を割り出す。

風が弱い条件であれば、完全に計算可能です。だから自動着陸ができるんです。飛行機の方が、私たちパイロットよりずっと正確に着陸します。

理論的な裏付けがなければ、何回着陸を繰り返しても上達しません。これは間違いありません。

でも、計算できない世界がある

ここまで読んで、「じゃあ、すべて理論通りにやればいいんだ」と思われたかもしれません。

でも、話はそう単純ではないんです。

飛行機のシステムは複雑ですが、予測可能です。変数は限定的で、コントロール可能です。

しかし、そこに「風」と「人間」が関わると、まったく違う世界になります。

風も、微風程度なら計算できます。でも少し強くなると、もう計算不可能な領域に入ってしまう。

そして人間。これはもっと複雑です。

ゴルフを例に考えてみてください。スイング理論は正しいかもしれない。でも、理論通りにやろうとすると、かえってスイングが崩れませんか?

なぜか。

人の体は、骨格も筋肉も神経伝達速度もすべて違うからです。一つ意識すると、必ずどこかが変わる。微妙なバランスを個人個人が感じてスイングを作っているところに、「意識」という変数が入り込んで、大きな変化を生んでしまう。

組織のマネジメントも同じです。

部下に「論理的に正しい」と判断して指示を出す。でも部下は想定外の反応をする。計画通りに進まない。一見同じ状況でも、毎回違う結果が出る。

なぜか。

人間は無数の変数を持っているからです。感情、価値観、経験、その日の体調、人間関係、隠れた不安や動機。微かな変数の変化で、大きく行動が変わってしまいます。

だからこそ、NLPやコーチング、カウンセリングなどがもてはやされているんだと思います。

でも、理論だけではどうしようもない。

人間の適応能力は、理論を超える

私が乗っていたDC9という旅客機は、とても癖の強い機体でした。

普通の飛行機は油圧を使って操縦します。軽い操作で素早くコントロールできます。

でもDC9は違いました。操舵面の小さな舵を動かして、その舵が大きな舵を動かすという、原始的な仕組みでした。

だから、操縦に2秒ものズレがあるんです。

操縦桿を傾けてから、飛行機が実際に傾くまで、2秒もかかる。

訓練の初期は大変でした。遅れがあるから、焦って大きく舵を使いすぎて、飛行機がのたうち回ってしまう。

でも、不思議なことに、人間はこのズレに適応してしまうんです。

気づけば、2秒先の未来を予測して、完璧に操縦できるようになっていました。

奄美空港の冬の西風。これがまた厳しい。滑走路間際で、とてつもなく気流が悪くなります。

少しの操縦ミスで滑走路を飛び出してしまうような風。着陸した後、膝がガクガクするくらいすごい乱気流の時もありました。

それでも、いつもよりスムースに着陸できてしまう。

なぜこんなことができるのか、自分でも不思議でした。

計算ではない。マニュアルでもない。人間の学習という、もっと本質的な能力が働いているんだと思います。

論理と感情の統合、それが「KANSEI」

飛行機の操縦でやっていることを言葉にすると、こうなります。

今持っている知識や経験の中で、ざっくりとした近い未来を予測する。それに対して、ベストではなく「ベターな行動」を選んでやってみる。それをフィードバックして、すぐに次の予測行動を取る。このパターンを繰り返す。

うまくいかなくなった場合は、今持っている予測モデルが違っているので、さっと変えてみる。

その時、大切なのは全体の方向性です。飛行機の運航でいえば、「安全に、快適に運ぶ」という次元の高い視点。

全体の方向性を感じて、論理的に分析し、適応していく。

まさに生命の適応戦略です。

変化する状況に対する違和感を大切にして、気持ち良い感情を感じ取る。

論理と感情を統合した、「KANSEI」。

これこそが、計算できない世界を生きるために必要なものなんだと思います。

マニュアルの限界

ボーイングとエアバスという二大航空機メーカーがあります。

エアバスの設計思想は、「人間」という計算が難しい問題を極力関わらせないようにすることです。ボーイングとは根本的な考え方が違います。

どちらがいいのか、私にはわかりません。

でも、組織も同じ問題を抱えていると思うんです。

「人間をマニュアル通りに動かそう」とする。計算できる世界に持ち込もうとする。

でも、お客様を乗せている飛行機の操縦は、一人でやっているものではありません。多くの人の相互作用でなされています。

ゴルフも同じ。体のあらゆる部分の相互作用から成り立っています。

小さなインプットの違いで、大きく異なる動きになってしまう。

これをマニュアルで規定しようとするところに、落とし穴があるような気がします。

あなたの日常でできること

理論は大切です。でも、それだけでは足りない。

人間の学習という本質的な能力を理解すること。感性で感じることの重要性を認めること。

変化する状況に対して、観察とフィードバックを繰り返すこと。

ベストを求めすぎず、ベターを積み重ねること。

違和感を大切にすること。気持ち良い感覚を信じること。

そして、全体の方向性を見失わないこと。

明日から、ちょっとだけ意識してみませんか?

理論通りにやってもうまくいかない時、それは失敗ではなく、「計算できない世界」からのメッセージかもしれません。

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