· パイロットの目  · 9 min read

どん底からの逆襲

一生懸命、言うことを聞いていると、どんどん悪くなる一方でした。 すべてが自分の思ったように進まなくなりました。 着陸もセンターラインをまともにまたげなくなってしまい、「これはダメだわ。」 機長資格を辞するようにした方がいいと思うようになりました。 しかし、ここまで苦労してきたのにという葛藤も渦巻いていました。

すべてが崩れていく恐怖

一生懸命、言うことを聞いていると、どんどん悪くなる一方でした。

すべてが自分の思ったように進まなくなりました。

着陸もセンターラインをまともにまたげなくなってしまい、「これはダメだわ。」

機長資格を辞するようにした方がいいと思うようになりました。

しかし、ここまで苦労してきたのにという葛藤も渦巻いていました。

後述のエピソードで書きますが、人と話して、こんなことで、つぶされてたまるかという思いが、ふつふつと湧いてきました。

最後の決断—「俺でやる」

相手の言われたことや与えられたことをやっているだけでは、だめになると。どうせだめになるのだったら、やりたいようにやって終わろうと。

その分、絶対に文句を言われないフライトにしてやると。

もう俺は、俺でやる。

そう決心して、すべての操作、判断について、知識からではなく、現場から見直そうと思いました。

根源的な「問い」の始まり

なぜ制服を着るのか?

なぜ時間通りに行かなくてはいけないのか?

なぜブリーフィングをするのか?

気象のチャートの解析はどの順序でやるのが良いのか?

なぜこれを見なければいけないのか?

なぜこのスイッチを今、ONとするのか?

この操作の意味は?

判断の方向は?

タイミングは?

もう一度、隅から隅までのすべての操作を安全という面から見直していきました。

機長昇格では当たり前にやってきたことですが、もう一度、徹底的にやってみようと考えたのです。

曖昧な指導の正体

人がものを教える時、「もっと早く」とか、「今の遅かったよね」「もっと強く」とか言いますが、それって、どこから強くて、どこからが弱いのか?どの基準点に比べて、速い、遅いを言っているのか?

お互いに基準点を確認しないまま、速い、遅い、弱い、強いを言っている。

これでは、指導される側は永遠に混乱するしかありません。

とにかく、空力理論とはまったく関係なく、自分の感覚で操縦をしていて、それを人に押し付ける。理論とは外れているので、延々と説明するのだと思いました。

理論で武装する決意

まず、そんな話に惑わされない理論を構築し直そうと思って、自分が当たり前と思っている根拠を構築し直そうと考えました。

飛行機の操縦は、すべては空力の理論と、規定類の判断です。テクニックではない。

行動や判断の基本になる、航空法、耐空性審査要領、運航規程、運用規定、ルートマニュアル、管制方式基準、計器飛行方式基準、飛行規程、事故・インシデント報告、航空力学、飛行の理論、流体力学、航空気象、過去の会社発行資料等、すべてを、いつも見ることができるように、至る所に広げておきました。

家族は困ったと思います。家中にマニュアルが広げてあったのですから。

そして、宿泊のあるスケジュールでは、テーマを決めて資料を持って行きました。そのため、その頃の私のフライトバックは恐ろしく重たくなっていました。

すべてを部屋中に広げて、トイレ、風呂場にも持っていって、読みまくりました。

5分あれば規定類を読む

とにかく、5分でも時間があれば、規定類を読んで、「自分の判断はこうだよな」と確認。運航のイメージをして、「これはどう判断すればいいのか?」と規定に戻る。

訓練の時はいろいろ質問されるので、言葉で覚えておく必要がありましたが、実践で使えるようにするためには、実際の運航をイメージして、そのイメージと知識を重なるようにして、使える知識にしていくことがコツのような気がします。

実際の運航をイメージして、2時間近いイメージフライトを何度も繰り返しました。

1ft単位の計算で武装

飛行機のコントロールに関しては、感覚的な操縦ではなく、空力計算からやり直しました。

速度を250ktから200ktにするためには、何秒、何マイル必要か?

飛行機がスムースに着陸するために行うフレアー(機首を上げる操作)の開始高度も、風や速度によって1ft単位で計算し直しました。

すべての操作を、1度単位、秒単位で計算し直しました。

理論という武器

教えられること、与えられることをやっても何も身に付かないことが分かりました。

相手にアドバイスをする時は、相手の身になって言っているようでも、それは自分が必要と思っていることで、相手が必要なことではないのです。

「もっと早く」「もっと丁寧に」「もっとしっかり」

基準も示さずに曖昧な指導をする。

自分のやり方を押し付けるだけで、理論的な根拠を示せない。

そして不思議なことに、そういう人ほど「指導熱心」だと評価されているのです。

曖昧な感覚論に対抗するには、理論という武器が必要です。

「なぜそうするのか?」

「どこを基準にしているのか?」

「根拠は何なのか?」

とにかく、根源的な「問い」をすることで、理不尽な指導から自分を守ることができます。

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