· パイロットの目  · 8 min read

恐怖は消えない。でも、飲み込まれない方法はある

冬になると、雪のほかに、厄介な問題が起きてきます。 風です。 冬型の気圧配置が決まり出すと、西風が強く吹くようになります。その影響が最も顕著に表れるのが、南北方向に滑走路があり、西側に山を持つ空港。 典型的な例が、奄美空港です。 奄美は滑走路の西側に山があります。西風になると、その山の影響で風下側に渦ができる。

奄美空港、冬の西風

冬になると、雪のほかに、厄介な問題が起きてきます。

風です。

冬型の気圧配置が決まり出すと、西風が強く吹くようになります。その影響が最も顕著に表れるのが、南北方向に滑走路があり、西側に山を持つ空港。

典型的な例が、奄美空港です。

高度150mからの地獄

奄美は滑走路の西側に山があります。西風になると、その山の影響で風下側に渦ができる。

高度150mぐらいまでは、周りが海で障害物もないので揺れません。

しかし、そこから先が大変なのです。

地表で風速14m。ということは、すぐ上空は風速30m以上。山を回り込んだ風は渦を巻いていて、どう変化するかは全く予想できません。

その風の急激な減少に対応しながら、激しい揺れをコントロールする。それを1分くらいの間でやらなければなりません。

何回やっても、手に汗握るフライトでした。

身体が固まる前に

怖いと思った瞬間、身体が固くなります。

固まると、反応が遅れる。揺れ出したら考えて操作している暇などありません。身体が勝手に反応してくれないと間に合わない。

だから、いいイメージだけを持つようにしていました。

着陸の40〜50分前から、副操縦士と一緒にブリーフィング。着陸を中止する条件、その時の操作を確認する。自分でも45回は着陸のやり直し手順をイメージして、頭の中でその時の飛行を再現します。

そして肝に銘じるのは、ただ一つ。

ちょっとでも自分のコントロールを超えたら、やり直す。

着陸に固執しない。滑走路は2000mしかない。少しでも接地点が延びそうなら、即ゴーアラウンド。

つまり、逃げ道を作っておく。

演技が始まる

揺れが始まりました。

内心は、結構緊張しています。

でも、声や態度にびびり感が出ないように、演技をします。何事もないように、装う。

なぜか。

横の機長が緊張すると、副操縦士はもっと不安になるから。

シミュレーター訓練で学んだことがあります。緊急事態の時に大きな声を出したり、早口になったりすると、副操縦士がミスをしやすくなります。

焦りが伝染して、とにかく物事を早く終わらせようとしてしまう。

逆に、こちらが落ち着いていれば、副操縦士は冷静に計器を見て、的確な助言をくれる。

だから、フリでもいいから平静を保つ。

着陸の瞬間

その日の着陸は、完璧でした。

スムースに、決められた着地点にピッタリ。少しでも伸びていたら即ゴーアラウンドだったけれど、その必要はなかった。

誘導路に入って、やっと息をつく。

足と手に力が入っていて、痛いくらいに握りしめていた。

膝はガクガクして、口はカラカラ。

それでも、声を出しました。

「結構、キツかったね」

平静を装って。

隣を見ると、副操縦士は呆然とした表情で、ほっとした様子でした。

悟られないようにしているつもりでしたが、多分、分かっていたと思います。

恐怖から逃げると、悪い方へ行く

正直に言えば、自分で操縦している方がまだ気が楽でした。

横でモニターしているだけの副操縦士の方が、もっとキツかったはずです。何もできないまま、ただ見ているしかない。その不安は、操縦している側より大きい。

だからこそ、機長の緊張は絶対に見せてはいけない。

長年飛んできて、一つだけ確信していることがあります。

恐怖や恐れから行動すると、必ず悪い方向に行く。

怖いから早く終わらせたい。怖いから何かしなきゃ。その焦りが判断を狂わせる。声が大きくなる。早口になる。周りも焦る。ミスが起きる。

でも、恐怖は自分が作り出した感情です。

自分が作ったものなら、自分で何とかできる。

逃げ道を持っておく

私がやっていたのは、シンプルなことでした。

事前に逃げ道を作っておく。「こうなったらやり直す」という基準を決めておく。

逃げ道があると思えるだけで、不思議と落ち着けるんです。

追い詰められている感覚が恐怖を増幅させる。でも「いつでもやり直せる」と思えれば、目の前のことに集中できる。

そして、内心ガチガチでも、笑ってみせる。

落ち着いているフリをすることで、本当に落ち着いてくる。周りも落ち着く。冷静な目が増えれば、気づきも増える。助言ももらえる。

恐怖は消えません。

でも、飲み込まれない方法は、ある。

逃げ道を探しておくこと。

そして、フリでもいいから、笑ってみせること。

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