· パイロットの目 · 11 min read
コミュニケーションの本質とは
コミュニケーション能力ってなんでしょうね。 人とうまくやることなのでしょうか? 企業の中で、コミュニケーションという問題は大きくなっています。 航空界の事故でもコミュニケーションに関わるヒューマンエラーが多くなっています。 だからこそ、アサーションだの、傾聴スキルだの、コミュニケーション能力向上を謳うセミナーがたくさんあります。
コミュニケーション能力ってなんだ?
コミュニケーション能力ってなんでしょうね。 人とうまくやることなのでしょうか?
企業の中で、コミュニケーションという問題は大きくなっています。 航空界の事故でもコミュニケーションに関わるヒューマンエラーが多くなっています。
だからこそ、アサーションだの、傾聴スキルだの、コミュニケーション能力向上を謳うセミナーがたくさんあります。
でも航空の現場で働いていて思うんです。本当に必要なのは、そういうスキルなのでしょうか?
航空業界でも同じ問題が起きていた
実は航空業界でも、同じような取り組みが行われてきました。
過去の事故の中に、機長の権威勾配が大きすぎて、チームの中の意見交換が阻害され、ヒューマンエラーにつながる事例が多くありました。航空界では、ヒューマンエラーを改善するために、CRM(クルーリソースマネジメント)という取り組みを長年やってきました。
リーダーは人の意見を聞き、チームで意思決定をして行動するという方向性で、アサーションや性格別コミュニケーションなどの研修が積極的に行われてきました。
ところが、ICAOの調査で驚くべき結果が出たんです。
これらの取り組みには効果がないことがわかったのです。
結局、運航現場での訓練が重要となり、今では日々の運航、訓練審査の中でそのような取り組みができるようにシラバスなどが組まれています。
安全に最も厳しい航空業界ですら、机上の理論では限界があったということです。
マニュアルって、実は事故の集大成
航空会社では「安全」が全ての大前提です。
マニュアルに書かれていることは、すべて過去の事故や失敗から学んだことなんです。血と汗の結晶、と言ったら大げさかもしれませんが。
ただ、「書いてあるからやる」と「なぜ書いてあるかを考えてやる」では、全然違います。
前者は思考停止。後者は目的の共有。
安全という共通の目的があるからこそ、パイロットも整備士もキャビンアテンダントも、自然に連携が取れるんです。コミュニケーション能力の高低なんて関係なく、目的を達成するために必要なやり取りが生まれる。
カメラマンとの不思議な関係
報道パイロットをやっていた時、カメラマンとはよく対立しました。
「もっと近づけ!」「低く降りろ!」
彼らは今日のいい写真が欲しい。私は安全に飛ばしたい。
でも、よく考えてみれば、私が安全を守るのはカメラマンのためでもあるんです。生きて帰らなければ、明日も来週も写真は撮れませんから。
短期的には対立しているように見えても、長期的には同じ方向を向いている。「継続して良い写真を撮り続ける」という目的を共有できた時、不思議と連携が取れるようになりました。
役割の違いに隠れた共通目的
一方で、報道現場では、一見みんなバラバラの方向を向いているように見えました。
デスク:他社に勝ちたい
カメラマン:いい写真を撮りたい
パイロット:安全に飛ばしたい
「お前らの命など何の関係もない、ただ写真の原稿だけが届けばいいんだ」
デスクにこう言われた時は、さすがに参りました。
この言葉は文字通りの意味でした。たとえ危険であっても写真を撮ってこい、ということです。
でも、よく考えてみると、私たちには共通の目的があったのです。
「報道写真を撮って、その真実を読者に届ける」
デスクは競合他社に負けずに真実を届けたい。カメラマンは伝わる写真で真実を伝えたい。私は安全に運航して確実に真実を持ち帰りたい。
表面的には対立しているように見えても、根底にある使命は同じでした。
そこから学んだのは「与えられた制約の中で、できることを全部やったのか?」という問いかけでした。
デスクは危険を冒してでも撮影を求める。私は安全を絶対に守る。この一見相容れない要求の中で、本当に最大限の努力をしたのか。
制約があるからこそ、創意工夫が生まれる。安全を守りながらも、より良いアングルを見つける方法はないか。限られた条件の中で、最高の成果を出すために何ができるか。
それぞれが異なる役割を担いながらも、共通の目的に向かって最大限の努力をする。これが本当のチームワークなのかもしれません。
価値観の違いをエネルギーに変える
面白いことに、価値観の違うチームの方が、時として素晴らしい結果を出したりします。
でも、それってコミュニケーション研修を受けたからじゃないんです。
仕事の目標や目的を共有できた時に、自然とコミュニケーションが生まれる。
目的がはっきりしていれば「これを達成するために何をすべきか」を考えるようになって、勝手に連携が取れるようになる。
違う価値観を持つメンバーが、共通の目的に向かってそれぞれの強みを発揮する。その時のエネルギーは、同質なチームでは決して生まれないものです。
セミナーでは教えてくれないこと
仕事と関係ない理論をいくら学んでも、現場では役に立ちません。
航空業界のCRMの例が示すように、どんなに権威ある業界でも、机上の研修では本当の変化は起きないのです。
その仕事での実体験を通してでしか、本当のチームワークって身につかないと思うんです。
目的を達成するために何をしなければならないかを考えた時、自然にコミュニケーションを取るようになる。
コミュニケーション能力なんて、その結果として勝手についてくるものだと思います。
本当の問題はどこにあるのか
問題はコミュニケーション能力ではなく、自分自身の本質的な目的が明確でないことかもしれません。
会社のため、株主のため、チームのため…本当にそれが自分の目的でしょうか?
航空現場で「安全」という明確な目的があったからこそ、自然な連携が生まれた。報道現場で「真実を伝える」という使命が見えたからこそ、役割の違いを乗り越えられた。
自分の本質的な価値観が明確でなければ、どんなコミュニケーション研修を受けても意味がないのです。
しかし、コミュニケーションについて、とても大切なことが一つだけあります。
それは今度お伝えします。
リーダーシップなんて教わるものじゃないです
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