· パイロットの目 · 6 min read
6万円のトラフグが教えてくれたこと
「今日、どこで食べます?」 宿泊先での夕食。 私の現役後半に差し掛かった頃から、副操縦士に聞くと、だいたいこう返ってくることが多くなりました。 「何でもいいです」 「どこでもいいです」
「何でもいいです」という呪い
「今日、どこで食べます?」
宿泊先での夕食。
私の現役後半に差し掛かった頃から、副操縦士に聞くと、だいたいこう返ってくることが多くなりました。
「何でもいいです」
「どこでもいいです」
会計の時も、自分からは動かない。誰かが「いくらだった」と言ってくれるのを待っています。
別に悪気があるわけじゃないのでしょう。
すべてが他人の責任になる。リスクを取らなくて済む。言われた範囲だけで過ごせる。
この傾向がどんどん強くなってきている気がしていました。
機長昇格で見えてくる「差」
パイロットが機長になるには、長く厳しい昇格訓練を通過しなければなりません。
最後の審査に落ちると、振り出しに戻る。一回目以上のプレッシャーの中で、また副操縦士として飛び続ける日々が待っている。
「何でもいいです」タイプの人も、それなりに合格はします。
でも、苦労します。
一方で、スムーズに訓練を乗り切っていく人たちがいます。
彼らを見ていると、別にコックピットの中だけで優秀なわけじゃない。
運航先での食事でも、「あの店、気になってたんですよ」とさっと提案できる。人数が多ければ、自然とコーディネートしている。自由な時間の使い方にも、何となく「自分のプラン」がある。
自分の考えを表現して、行動する。
リスクを評価して、その責任を取る。
そういう日常の積み重ねが、いざという時の判断力につながっているんじゃないかと思います。
「その時になったらリーダーシップを発揮すればいい」
このような人たちは、リーダーという格が人を動かすと思っているようです。
北九州の夜、小さな割烹にて
副操縦士時代、北九州に泊まった時のことです。
繁華街を歩いていたら、小さな割烹が目に留まりました。なんとなく良さそうな雰囲気。
一緒にいた機長に声をかけました。
「あそこ、入ってみませんか」
カウンターに座ると、大将が言う。
「今日、いいトラフグの白子が入りました。どうです?」
調子に乗って「いいですね、ください」。
その後も、勧められるままに「お願いします」「それも」。
会計の時、目を疑いました。
二人で6万円。
さすがに機長に申し訳なかった。でもその機長は、私からは1万円しか取りませんでした。
穏やかで、操作に信頼感があって、常に人への気配りがある人でした。 ああ、こういう機長になりたいな、と思った夜でした。
6万円で何を得たか
正直、やらかしたと思いました。
でも、今でもあの白子の味は舌に残っています。あのとろける食感、口の中に広がる旨味。
失敗? いや、最高の話のネタになりました。
リスクを取ると、予想外のことが起きる。ハプニングがある。でも、そこに気づきがあります。
「何でもいいです」と言っていたら、あの味は知らないままだった。あの機長の人柄にも、あんな形では触れられなかった。
リーダーシップは肩書きじゃない
リーダーシップって、「機長になったら発揮するもの」じゃないんです。
家庭でも、友達との間でも、ちょっとしたコミュニティでも。
「今日どこ行く?」に対して、自分の意見を言う。
失敗するかもしれないけど、選ぶ。
その責任を取る。
周りの人に気遣いをし、みんなが思っていることを実現するにはどうしたらいいかという視点で物事を考える。
私はではなく、私たちという視点がある。
そんな小さな積み重ねが、いざという時に動ける自分を作っていくと思っています。