· パイロットの目  · 11 min read

やっと掴んだ夢の座席

私はというと、やっと自分の希望していた路線部門に移れると聞いて、嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。 まだヘリコプター事業部に在籍中のこと、路線運航のオブザーブということで、操縦席にあるジャンプシートに乗務させてもらい、東京から女満別の便を見学させていただいたことがありました。 取材飛行の喧騒とは全く違いました。

707憧れの路線部門への扉

私はというと、やっと自分の希望していた路線部門に移れると聞いて、嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。

まだヘリコプター事業部に在籍中のこと、路線運航のオブザーブということで、操縦席にあるジャンプシートに乗務させてもらい、東京から女満別の便を見学させていただいたことがありました。

取材飛行の喧騒とは全く違いました。

2人で操作を確認しながら、ゆったりとした時間が流れている。飛行速度も速く、やることも段違いに多いのに、なぜこんなに落ち着いた運航ができるのか。

人の命を預かっているという、安全に対する求め方が格段に違うんだと実感しました。

正確で安全に運航している様子を見て、「なんとかここに辿り着けるように」と心から願いました。

「待つ」ことの意味を知った日々

でも、どんなに願っても、物事は良くなりません。たとえ努力をしてもなかなか実現しません。

もし事業部が続いていたとしたら、私はヘリと固定翼で取材を続けていたでしょう。家族もいて、もうやめるという選択肢はなかなか選ぶことができませんでした。

今思い返すと、

最後まで途中で諦めないで、じっくり腰を据えて待っていた人が、結局一番早く目標に近づくことができるということです。

経済状態は必ず浮き沈みがあります。どんどん状況が悪くなっている底の状態で、一生懸命に動き回っても良い方向にはいかないものです。

今思うと、航空大学校の卒業の時、教官が「3年待て、必ず良くなるから」と言った言葉がよく理解できます。

じっくりと未来と自分を信じて、自分の能力を高めることをしていた人間が一番早く目標に到達する—そう思っています。

同期でも、動き回らないで、英語や自分のスキルを高めるようなバイトをして機会を待っていた者が、最も速く機長になりました。

そうやってうまく波に乗ると、いい時にいい変化が訪れるものです。

状況が悪くなっている時、自分も不安に駆られています。でも、その不安を解消するように慌てて動くのが、一番の悪手のような気がします。

そこで動いてしまうと、悪い状況の時に変化が訪れてしまうサイクルになってしまうような気がします。まさに私のことなのですが。

石油ショックと同じように、自分ではどうしようもないこともある。そんな時こそ、焦らないことが大切なんだと、今さら痛感しています。

DC-9訓練で学んだ「確実性」の価値

ヘリコプター事業部が解散され、私はDC-9型機の訓練に入りました。

訓練所は羽田の整備場にあり、モノレールで通う生活が始まりました。訓練の資料も豊富で、きちんと整理されていました。

訓練に対する準備の徹底が求められます。2人で組んで訓練に臨みます。

操縦訓練はシミュレーターで行われます。

まず、何もモーションのないもので、スイッチ類の操作手順を何度も演練します。

2名乗務なので、黙ってスイッチを触ることはありません。常に呼称し、操作の状況を声に出して、相手にモニターをしてもらいます。

「スタンダードコールアウト」と言って、声に出す言葉もタイミングも決められています。その後、チェックリストで確認していきます。

この操作が流れるようにできて、初めて操縦しながらの操作ができます。

操縦をしていない時に言いよどんだり、操作が詰まったりしたら、飛行している時は飛行機がまったく安定しません。

そうなると進捗状況の評価が著しく悪くなります。

評価はA、B、C、Dで評価結果を記録されます。Dは危険操作があった場合で、即訓練中止です。Cが2回も続くと追加訓練となり、それが続くようだと審査会にかかり、訓練継続の可否を問われ、評価審査になってしまいます。

訓練は、そのシミュレーターで演練するのではありません。決められたシラバスをいかに準備して、乗る前にできることはすべて済ませて臨むことが求められています。

つまり、シミュレーターに入る前の準備がすべてを決めるんです。

何度も何度も、2人で操作が流れるようにできるまで、繰り返します。

風呂に入っている時、電車に乗っている時、歩いている時も、イメージフライトを繰り返します。

4分間の集中

第1段階は「エアワーク」といって、飛行機のマニューバーを安定させる訓練です。

決められた速度、上昇降下率での安定した飛行

失速からのリカバリー

タッチアンドゴー

などの科目があります。

タッチアンドゴーは、滑走路を周回飛行して、離陸と着陸を繰り返します。

約4分間の間に、正確な飛行ルート、パワーセット、スピードコントロール、チェックリスト、ブリーフィングの実施を求められます。

秒単位での操作が続きます。

4分の時間って短いと思われますが、相当なことができます。時間って相対的なもので、意識すれば多くのことをこなすことができるんです。

ここで安定した着陸ができなければ、先に進むことはできません。

緊急操作で学んだ「焦り」の怖さ

次に緊急操作の訓練が入ってきます。

エンジンファイアー、エンジン停止、油圧系統、電気系統の故障—計器での表示を素早く察知し、何が起きているのかを把握し、正確にチェックリストの手順を実行する。

ここで焦ると、チェックリストをスキップしたり、スイッチのON/OFFを間違ったりしてしまいます。

焦ると時間はあっという間に過ぎてしまう。でも急いでやっても、ゆっくりやっても、物事はコンマ何秒かしか変わらないのに、人間は結果を急いでしまうんです。

一つひとつ確実に—それが最速の道

パイロットは短い時間にいろいろなことをこなしているように見えますが、実は違います。

少しずつ優先順位をずらして、一つひとつ確実にこなすことが、最も物事を早く処理するコツなんです。

一つでもおろそかにすると、後々大ごとになってきます。

これは、日常生活でも同じかもしれませんね。

目標に向かう時、不安になって慌てて動きたくなる気持ち、よく分かります。

でも本当に大切なのは、焦らず、あ〜不安になってるな〜って思いながら、やることを一つひとつ確実に積み重ねていくこと。

準備を怠らず、自分の目指す本質を大切にすること。

それが、実は一番の早道なのかもしれません。

Share

Back to Blog

Related Posts

View All Posts »

「選択肢」の現れかた

前回の「選択肢」では、直感が導く答えはほぼ正しいという話をしました。迷ってぐずぐずすることが最悪で、選択肢が現れた瞬間に決断して動くことの大切さを書きました。 では、その選択肢はどのように現れるのか。 今回はその話をしてみたいと思います。 直感力で決定するというのは、あまりにも乱暴なやり方のように思うでしょうね。

恐怖は消えない。でも、飲み込まれない方法はある

冬になると、雪のほかに、厄介な問題が起きてきます。 風です。 冬型の気圧配置が決まり出すと、西風が強く吹くようになります。その影響が最も顕著に表れるのが、南北方向に滑走路があり、西側に山を持つ空港。 典型的な例が、奄美空港です。 奄美は滑走路の西側に山があります。西風になると、その山の影響で風下側に渦ができる。

なぜ理論通りにやってもうまくいかないのか?

「飛行機の操縦って、特別な才能が必要なんでしょ?」 そう思われている方も多いかもしれません。でも実は、誰でもできるように作られているんです。 ただし、そこには確実な理論と計算があります。 たとえば着陸。一見、パイロットの勘やテクニックに見えるかもしれませんが、実は緻密な計算の積み重ねなんです。

どん底からの逆襲

一生懸命、言うことを聞いていると、どんどん悪くなる一方でした。 すべてが自分の思ったように進まなくなりました。 着陸もセンターラインをまともにまたげなくなってしまい、「これはダメだわ。」 機長資格を辞するようにした方がいいと思うようになりました。 しかし、ここまで苦労してきたのにという葛藤も渦巻いていました。