· パイロットの目  · 10 min read

フィンランドの白夜が教えてくれた、見栄の正体

DC-9の訓練は、まず座学から始まりました。マニュアル類は充実していて、訓練もシステム化されて、全てがどんどん流れていきます。旅客機といっても中型の163名乗りでしたが、全てが新鮮で、追いつくのに一生懸命でした。 座学を終えると、いよいよフィンランドでの実機訓練です。 5月6月の訓練期間は、まさに白夜の季節。

白夜に包まれた楽園のような訓練

DC-9の訓練は、まず座学から始まりました。マニュアル類は充実していて、訓練もシステム化されて、全てがどんどん流れていきます。旅客機といっても中型の163名乗りでしたが、全てが新鮮で、追いつくのに一生懸命でした。

座学を終えると、いよいよフィンランドでの実機訓練です。

5月6月の訓練期間は、まさに白夜の季節。夜の12時頃まで明るく、朝は3時頃には日が昇る。ヘルシンキを離陸して、トゥルクという空港でタッチアンドゴーの訓練を繰り返します。

フィンランドは高い山がなく、高い木も少ない。フラットな地形の中を飛行していく景色は、日本とは全く違う美しさでした。とにかく明るく、天候も毎日晴天で、風も強くなく、気流も安定していて、とても気が楽にフライトに臨めました。

旅客機の訓練では、操縦する人以外は客席にいて、飲み物や軽い軽食を食べることができます。大きなマニューバーもしないので、快適なフライト。みんな、穏やかで、もう審査も通ったような気分で気楽に訓練を楽しんでいました。

フィンランドエアーの教官の別荘で

ある日、フィンランドエアーの教官の別荘に招かれました。

湖のそばにあって、広いサウナがついています。日本の熱いサウナと違い、中の温度は60〜70度で、長く入っていることができます。時々リュウリューをして蒸気を出して温度を上げる。熱源となっているストーブの上では、ソーセージを焼いていて、それを食べながらビールを飲んで、時々横の湖に飛び込む。

「なんて優雅な生活をしているのだろう」

教官も楽しんでいたので、みんながのびのびと訓練を楽しんでいました。そのころは、みんな着陸もうまく、みんなスムースに操縦していた。

まさに楽園のような環境でした。

自信のなさを隠すための「まとめたがり」

訓練には6名で入りました。私より10歳以上下の人たちと一緒です。

一番の年長だったので、グループ長を任されたのですが、今思うと、自分のことしか考えていなかったなと思います。「俺がまとめなきゃ」「俺がリーダーだから」という気持ちで、なんとかみんなをまとめようとしていました。

でも、その背景には自信のなさがありました。

みんなは順調に路線パイロットになったのに、自分は回り道をした。ヘリコプター事業部から路線部門への移行という、他のメンバーとは違うキャリアを歩んできた負い目のようなものがあったんです。

その自信のなさを隠すために、機長だったというアピールをしたかったのでしょう。教官たちにも「さすが」と思わせたい気持ちがありました。

厳しい訓練環境では、見栄を張っている余裕はありません。でもフィンランドの穏やかな環境で気持ちに余裕ができた途端、自分の価値を証明したいという気持ちが顔を出してきました。

みんなはそんな感覚を持っていないのに、自分だけが変に力んでいる。そんな状況でした。

「俺は機長をやっていたんだぞ」アピール

その劣等感の裏返しとして、私は無意識にアピールをしていたんだと思います。

「俺は機長をやっていたんだぞ」

外れた意味があったのだということを証明したかったのかもしれません。機長としてのコマンダビリティーがあるぞ的な、今思うと恥ずかしい見栄を張っていたような気がします。

操縦の出来は悪いので、なんか人間性を大きく見せようなんて思っていた感もあります。技術で劣る分を、経験やリーダーシップでカバーしようとしていました。

教官にもアピールしたかったのでしょう。「この人は違う経験を持っている」と思われたくて。

ああ、今思うと本当に恥ずかしい。

「上も下もない」ことに気づく

その頃の私は、機長と副操縦士について、機長が上だと思っていました。

でも今思えば、上も下もないのに。

緊張感がなくなると、変な自意識が出てしまう。劣等感を持っている時ほど、変な見栄を張ってしまう。まさにその典型でした。

結果的に、私たちのグループは、その後疎遠になってしまいました。一緒に訓練に入ったグループは仲が良くていつまでも交流があるのに、私たちのグループは違いました。多分、私の問題が大きかったと思います。

通常、仲の悪いグループは、落ちてしまう人が出ます。助け合うグループは、全体の質も上がり、グループの人のスキルも高くなる。人の気配りが、自分のパフォーマンスの向上につながるのでしょう。

なんとか、みんな審査も合格したことで良かったのですが、本当はもっと違う過ごし方があったはずです。

本当に大切だったもの

今振り返って思うのは、そんな見栄を捨てて、みんなと同じ目線で訓練を楽しめばよかったということです。

「俺は機長だった」なんてアピールは、誰も求めていませんでした。みんなが求めていたのは、一緒に学び、一緒に成長する仲間だったんです。

フィンランドの白夜という素晴らしい環境で、優雅なサウナ体験もして、最高の条件が揃っていたのに、自分の劣等感と見栄が邪魔をしてしまった。

もったいないことをしたなと、心から思います。

あなたも持っていませんか?

「自分は違う経験をしているんだ」「自分には価値があるんだ」と証明したくて、結果的に周りとの距離を作ってしまったこと。

劣等感や負い目を感じている時ほど、私たちは変な見栄を張りがちです。でも本当に大切なのは、そんな見栄を手放して、素直にその場を楽しむこと。

上も下もない。みんな同じ目線で、一緒に学び、一緒に成長していく。

フィンランドの白夜が教えてくれたのは、そんなシンプルで大切なことでした。

あの時の自分に言ってあげたい。

「もっと肩の力を抜いて、みんなと一緒に楽しめばよかったのに」と

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