· パイロットの目  · 10 min read

最も大切だった、たった一つのこと

機長審査での挫折から立ち直るために、私がやったことは3つありました。知識の徹底的な見直し、自信のあるふりをする演技術、そして3つ目——これが一番効果があったんです。 それは、人と話すこと。 でも、これは意識的にやったことではありませんでした。 審査でうまくいかなかったことから、なんだか周りの目がすごく気になるようになりました。

機長審査での挫折から立ち直るために、私がやったことは3つありました。知識の徹底的な見直し、自信のあるふりをする演技術、そして3つ目——これが一番効果があったんです。

それは、人と話すこと。

でも、これは意識的にやったことではありませんでした。

みんなが私を見ているような気がして

審査でうまくいかなかったことから、なんだか周りの目がすごく気になるようになりました。

廊下ですれ違う副操縦士が、ヒソヒソと何か話している。

「きっと私のことを話しているんだ」

「フォローがついてるらしいよ」

乗員室にいる部長たちがヒソヒソ話をしている。

私の処遇をどうしようかと考えているのでは??

そんな風に思えて仕方がありませんでした。

私は航空大学校を卒業後、一度ソニー商事に就職し、その後ヘリコプターの免許を取って東亜国内航空に入社。長い間ヘリコプターや小型ジェット機で取材業務をしていました。

路線パイロットとしては他の人より経験が少ない。そのことが、審査の結果と重なって、なんだか自分の全経歴を否定されているような気持ちになっていました。

実際は、全然関係ない話をしているのです。でも、一度そう思い込んでしまうと、すべてが自分への批判に聞こえてくるんです。

食堂で同僚と一緒になっても、なんとなく居心地が悪い。

「この人も、今フォローがついている人間はダメだと思っているんじゃないか」

そんなことばかり考えて、自然に話すことができなくなっていました。

ふとした瞬間の告白

そんな状況が続いて2〜3ヶ月。

同じDC-9を操縦している機長の同僚と、たまたま二人で食事をすることになりました。航空大学校の同期に近く、いつも気さくに話をする仲でした。

最初はいつものように他愛もない話をしていたのですが、ふと気がつくと、私は自分の状況を話していました。

「機長審査で失敗しちゃったよ〜」

「今、M機長と飛んでるんだけど、やることなすこと裏目に出てしまう」

思い切って、今の自分の現状を話しました。

「そんなこと、みんな気にしてないよ」

同僚は、私の話を自然に聞いてくれました。

そして、あっけらかんとこう言ったんです。

「そんなこと、みんな気にしてないよ」

「誰でもみんな、そんな経験してるから」

「みんな自分のことで精一杯だもん。お前の経歴なんて、正直そんなに考えてないって」

同僚は笑いながら続けました。

「むしろ、ヘリコプターも飛べるなんて、すげーなって思ってる人の方が多いんじゃない?」

流れで出てきた指導教官の話

その流れで、同僚は面白い話をしてくれました。

「そういえば、あいつの言っていることって、変でしょ?」

「あんなやつの言うこと、聞いちゃダメだよ。無茶苦茶だから」

「俺は絶対に聞かないよ」

グタグタ、横でいい始めたら、すぐ「You Have」

「じゃあ、ちょっとやって見せてください」

「自分でやっているから、グタグタ言えなくなるから 笑」

「みてたら、安心するから、まったく下手だから」

「だから副操縦士の時から、言うことなんか聞いてないよ」

同僚はケラケラ笑いながら続けました。

「つまり、お前が悩んでいることって、実はそんなに特別なことじゃないんだよ。俺たちみんな、同じようなことで悩んでるし、同じように乗り越えてる」

経歴なんて関係なかった

この時初めて気づいたんです。

私が「人と違う経歴だから」と思い込んでいたコンプレックスも、実は周りの人はまったく気にしていなかったのです。

むしろ、「ヘリコプターも飛べるなんてすごい」と思ってくれている人もいる。

私が一人で勝手に劣等感を抱いて、自分で自分を追い込んでいただけだったんです。

不思議なものですね。

「相談しよう」と意気込んで話すのではなく、なんとなく、自然に話したからこそ、相手も自然に答えてくれたような気がします。

重い空気もなく、お互い普段通りの調子で。

だからこそ、同僚の「そんなこと、みんな気にしてないよ」という言葉が、すっと心に入ってきました。

「あ、気にしなくていいんだ」

「あ、私の経歴も、それはそれで価値があるものなんだ」

そんな確信が、自然に湧いてきました。

意図しない救いの力

この経験で分かったのは、救いって、案外意図しないところからやってくるということです。

「人に相談しよう」と構えるのではなく、ちょっとした雑談の中で、ふと本音が出る。

そんな自然な瞬間にこそ、本当の支えが得られるのかもしれません。

一人で考えていると、どんどん悪い方向に想像が膨らんでしまう。

でも、誰かとの何気ない会話の中で、案外あっけなく霧が晴れることがある。

今思うと、フライトの大切な本質は、こうした対話の中から汲み取ったものが多かった気がします。

今だからわかる、自然体の大切さ

もしあなたが今、「自分は人と違うから」「自分の経歴は劣っているから」と一人で悩んでいるとしたら、一人でその答えを見つけるのは難しいかもしれません。なぜなら、その悩みは自分の思考が作り出したものだからです。

誰かと普通に話をしてみる。雑談でも、愚痴でも、何でもいい。

その中で、自分とは違う思考の次元で、解決の糸口が見つかるかもしれません。

あなたがコンプレックスに思っていることも、実は他の人から見たら魅力的な個性だったりするものです。

救いは、案外身近なところに、自然な形で存在しているものなのかもしれませんね。

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