· パイロットの目  · 14 min read

真っ白な闇

雪の季節は、パイロットにとって最も神経を使う時期です。 滑走路に積もった雪の種類、積雪量、摩擦係数、風の強さ——これらが複雑に絡み合って、着陸できるかどうかが決まります。 私たちは目的地に着く前に、地上から知らされるデータをもとに計算します。 滑走路を3つの区分(着陸地点付近、中間点、滑走路の末端)に分けた摩擦係数、風の強さ、飛行機の重さ、気温、標高。

降りられるかどうかは、計算で決まる

雪の季節は、パイロットにとって最も神経を使う時期です。

滑走路に積もった雪の種類、積雪量、摩擦係数、風の強さ——これらが複雑に絡み合って、着陸できるかどうかが決まります。

私たちは目的地に着く前に、地上から知らされるデータをもとに計算します。

滑走路を3つの区分(着陸地点付近、中間点、滑走路の末端)に分けた摩擦係数、風の強さ、飛行機の重さ、気温、標高。

これらから着陸後の制動距離を割り出して、滑走路内で止まれるかどうかを判断するのです。

計算上、止まれないなら降りられません。

除雪を待つか、引き返すか、別の空港へ向かうか。

現在は除雪機械が発達して、30分ほどで作業は終わります。それでも離着陸機が続くときは、再除雪に入ることもあって、1時間以上も上空で待つことは珍しくありませんでした。


大雪の青森へ

今日の青森は、大雪予報です。

羽田を出てすぐに、雪の状況を確認します。

降雪が強く、除雪してもすぐに雪が積もるため、1機着陸するたびに除雪が入るとのこと。

案の定、青森の上空で待機の指示が来ました。

副操縦士と綿密なブリーフィングをします。

前の機体が着陸して、除雪に入ります。

20分ほど待機した後、アプローチを開始しました。

でも雪が強い日は、除雪から10分も経っていないのに、着陸する頃には滑走路が真っ白に戻っています。

真っ暗な闇夜の中、ランディングライトに照らされた白い雪の粒が降りかかってくる中、進入を続けていきます。


横殴りの雪の中で

進入限界高度が近づいて、やっとアプローチライトが見えてきました。

横殴りの雪が、まるで自分が横に飛んでいるかのような錯覚を起こします。

着陸直前、真っ白な雪に覆われた滑走路が見えてきます。

かろうじて、ぼやっとセンターラインが見えるだけです。

前方に照らし出されるのは、ただ真っ白な平面だけ。

うっすらと綿雲に包まれたような視界の中で、ぼーっと光るセンターラインライトだけが、そこが滑走路であることを教えてくれます。

夜間だと、それはまさに「真っ白な闇」でした。


見える前にイメージを作る

このように視界がないときは、見える前に頭の中でしっかりイメージを作っておく必要があります。

そして計器と、自分のイメージを信じて降りていくしかありません。

普段なら、接地点のマーキングが見えるので、滑走路のどこに降りたかがわかります。

でも真っ白な雪の中では、それも見えません。

自分がどこに降りたのか、滑走路があとどれくらい残っているのか、わからないまま減速していくのです。


7秒ルール

実際、同じような状況で青森ではオーバーランが2件起きています。

どこに接地したかが、命を分けます。

少しでも接地点が伸びたら、滑走路の中では絶対に止まれません。

伸びたと思ったら、すかさずやり直すしかないのです。

判断材料は、滑走路末端を過ぎて7秒以内に接地すること。

7秒を超えたら、伸びてしまった証拠です。

接地した瞬間、脇にある距離表示板で位置を確認します。

その確認を、副操縦士に託します。

末端を過ぎたら秒数をカウント。もし7秒で接地しなければ「ゴーアラウンド」のコール。

接地したらどこについたか、所望の位置かどうかを確認してもらいます。

とにかく、事前に副操縦士と十分すぎる打ち合わせが必要になります。

どこで何をするか。意図と違った場合の行動。コールアウトの内容。

雪で摩擦がないときは、どんなにブレーキを踏んでも止まりません。

摩擦係数に見合った減速感があるかないか。

あらゆる情報を総動員して、止まれるかどうかを判断します。


するっと降りる怖さ

雪の上に着陸するとき、意外なことがあります。

滑走路末端を過ぎたあたりで、躊躇なくエンジン出力をカットしても、機体はするっと接地してくれるのです。

雪のクッションと、摩擦係数が小さいおかげです。

ただ、ショックが少なすぎると問題が起きます。

グランドスポイラー——接地したら翼の上に立ち上がる板——がすぐに作動しないことがあるのです。

これが遅れると、機体の重量がブレーキに伝わらず、計算した距離では止まれなくなります。

だから副操縦士には「スポイラー、アップ」の確認コールを必ずさせていました。


逆噴射のジレンマ

DC-9という機体は、胴体の後ろにエンジンがあって、垂直尾翼の横で逆噴射をします。

早く止まるためには最大限の逆噴射を使いたい。

でも強くかけすぎると、垂直尾翼の効きが悪くなって、まっすぐ走れなくなります。

滑走路を飛び出す可能性があるのです。

だから逆噴射の加減にも、ものすごく神経を使いました。

着陸後は、自分たちの計算を信じて、距離表示を確認しながら減速していく感覚を確かめるしかありません。

確実に減速している感覚があると、ホッとします。

滑走路内で一旦、確実に止まるくらいの速度にします。

油断すると、滑走路末端の摩擦係数が悪い場合は、まったく制動できないまま、滑走路をオーバーしてしまいます。


そろりそろり

ほとんど止まるくらいの速度まで落としてから、誘導路に入行っていきます。

見えるのは、ランディングライトに照らされた真っ白な平面だけです。

「ここ滑走路だよね?」

「多分、そうだと思います。左右にライトあります」

「これランウェイライトだよね」

副操縦士とそんなやりとりをしながら進みます。

昼間でも降雪が強いと誘導路の入り口が見えにくいのです。

夜間だと、ぼーっと光る青い四角のライトだけが目印です。


ライトの色が教えてくれる

誘導路の入り口は青い四角いライト。

センターラインは白い丸いライトで、残り300mになると赤に変わります。

誘導路のセンターラインは緑色です。

ライトの色で、自分の位置を確認します。

除雪でできた雪山と、そのライトの間を、そろりそろりと入っていきます。


止まっているのに滑り落ちる

横風があると、飛行機は風上を向こうとして、なかなか誘導路の方向に向いてくれません。

しかも誘導路にわずか0.5度の傾斜があるだけで、風と一緒に滑り落ちる危険があります。

そんなときは、トーイングカーを要請して引っ張ってもらうしかありませんでした。

冬季は、滑走路も誘導路も駐機場も、すべての摩擦係数を測定しています。

数値が低いところは、本当にそろりそろりと、滑り具合と止まり具合を手探りで確かめながら進むのです。

先が見えない中を、右席の副操縦士と一緒に——

「そっちいいよね」

「ここで間違いないよね」

そう声を出し合いながら、運航していました。


見えないときの手がかり

視界がないとき、何を頼りに進むのか。

私たちは「見えるはずのものが、見えていること」を一つひとつ確認していました。

7秒以内の接地。距離表示板の数字。スポイラーが立つ音。減速していく身体の感覚。青いライト、白いライト、緑のライト。

見えないからといって、何も手がかりがないわけではありません。

「こうなっているはずだ」というイメージがあれば、それが見えているかどうかを確認できます。

イメージと現実がずれたら、すぐに修正できるのです。


小さな光を探す

これは、先が見えない状況で不安を感じているときも同じかもしれません。

全体像が見えないと、人は不安になります。

何をしていいかわからない。自分が正しい方向に進んでいるのかわからない。

でも「こうなっていればいいな」というイメージを持っていれば、それが手がかりになります。

今やっていることが、そのイメージに近づいているかどうか。

小さな変化でいいのです。「これが見えたら、うまくいっている証拠」というサインを決めておく。

真っ白な闇の中でも、センターラインライトは光っていました。

見えないときこそ、見えるはずのものを探す。

その小さな光が、次の一歩を照らしてくれるのだと思います。

Back to Blog

Related Posts

View All Posts »

報道取材空中戦

ヘリに続いて固定翼の訓練も始まりました。S310と言うセスナ社の双発の機体です。 航空大学校で乗っていたビーチ社のバロンという機体とほぼ同じような機体なので、離着陸の感覚や特性を手に入れれば、航空局の審査をしなくても乗務ができます。 羽田から出て、大島や仙台へ飛行して、タッチアンドゴーという離着陸を繰り返す訓練をします。

座った瞬間にわかること

「失敗は成功のもと」 誰でも知っている言葉です。でも、本当にそうなのだろうかと、最近よく考えます。 失敗が成功につながる人と、何度失敗しても同じところにとどまり続ける人がいます。その違いは、能力の差ではないような気がしています。 失敗の受け取り方が、まるで違うのです。 今、ある場所でパイロットの方たちにアドバイスをする機会をいただいています。

「選択肢」の現れかた

前回の「選択肢」では、直感が導く答えはほぼ正しいという話をしました。迷ってぐずぐずすることが最悪で、選択肢が現れた瞬間に決断して動くことの大切さを書きました。 では、その選択肢はどのように現れるのか。 今回はその話をしてみたいと思います。 直感力で決定するというのは、あまりにも乱暴なやり方のように思うでしょうね。

恐怖は消えない。でも、飲み込まれない方法はある

冬になると、雪のほかに、厄介な問題が起きてきます。 風です。 冬型の気圧配置が決まり出すと、西風が強く吹くようになります。その影響が最も顕著に表れるのが、南北方向に滑走路があり、西側に山を持つ空港。 典型的な例が、奄美空港です。 奄美は滑走路の西側に山があります。西風になると、その山の影響で風下側に渦ができる。