· パイロットの目  · 12 min read

「注意しよう」は、必ず破綻する

「また同じミスをして…本当に注意が足りないんじゃないか」 そんな言葉を聞いたことはありませんか?あるいは、自分自身に対してそう思ったことは? 実は、ミスをするのは人間として当たり前のことなんです。そして、ミスをした本人を責めても、何も解決しません。 人間の脳は、とても効率的に働くようにできています。

ミスをした人を責めても、何も変わらない

「また同じミスをして…本当に注意が足りないんじゃないか」

そんな言葉を聞いたことはありませんか?あるいは、自分自身に対してそう思ったことは?

実は、ミスをするのは人間として当たり前のことなんです。そして、ミスをした本人を責めても、何も解決しません。

人間の脳は、もともとミスをするようにできている

人間の脳は、とても効率的に働くようにできています。過去に見たことや経験したことを、自動的に「同じこと」として処理しようとするようです。

だから、錯覚や思い込み、忘れるということは、脳の癖のようなもの。似たような記憶は、勝手にひとまとめにされてしまいます。

一度思い込んでしまったら、それを疑おうともしない。これも人間の特性です。

どんなに注意深い人でも、人間である以上、必ずミスをします。そして、あなたが犯すミスは、他の誰かも必ず犯します。

そんな「過失」と呼ばれるようなミスは、本人を責めるべきではないんです。

「注意しよう」と思った瞬間、すでに負けている

ここで、多くの人が勘違いしていることがあります。

「注意しないと」と思ったものは、いつか、どこかで必ず破綻します。

「忘れ物をしないようにしないと」と思っていても、必ず忘れ物をします。

なぜか?

人間の注意力には限界があるからです。疲れているとき、急いでいるとき、他のことを考えているとき。そんなとき「注意しよう」という意識だけでは、ミスを防げません。

だから、「注意する・しない」の問題にしてしまうこと自体が、間違いなんです。

責めるべきは「ミスを起こさせるシステム」

本当に見直すべきなのは、ミスを起こさせてしまう環境やシステムです。

たとえば、同じような形のスイッチが近くにあったら?絶対に繋いではいけない結線のコネクターが、同じ形だったら?

人は必ず間違える可能性があります。

初期の旅客機が教えてくれた、システムの重要性

初期の旅客機では、ランディングギア(車輪)のレバーとフラップ(翼の面積を広げるシステム)のレバーを間違える事故が頻発していたんです。

なぜか?

同じような形のレバーが、同じようなところにあったからです。

パイロットが着陸の準備で「フラップを下げよう」と思って操作したレバーが、実はランディングギアのレバーだった。あるいはその逆。

どんなに優秀なパイロットでも、この間違いを犯しました。

「もっと注意してレバーを操作しよう」

何度も何度も指導されました。でも、事故は減りませんでした。

では、どう解決したか?

レバーの形と位置を、まったく違うものにしたんです。

ランディングギアのレバー:タイヤの形の丸い頭にして、計器盤に配置

フラップのレバー:翼の形にして、機長と副操縦士の間のセンターペデスタルに配置

形も位置も触った感触も、まったく違うものにしました。

すると、レバーの取り違え事故は劇的に減ったんです。

「注意してレバーを確認しよう」と何百回言うより、システムを変える方が確実でした。

世の中には、こういった落とし穴がたくさんあります。ミスが起きた時、人間の過失ばかりを追及すると、本当の原因が見えなくなってしまうんです。

ミスの本当の原因は、もっと別のところにある

ミスの原因は、その人の怠慢や不注意ではないかもしれません。

長時間労働で疲れ切っていたのかもしれない。注意力を奪う何かがあったのかもしれない。そのことについての教育が不十分だったのかもしれない。家庭で何か問題を抱えていたのかもしれない。

人間のミスは、たいていシステムの不備か、教育の問題です。

「たまたま忘れてしまった」というミスも、適切にリマインドする仕組みがないシステムの問題なんです。

パイロット時代に学んだこと:30項目のチェックリストが教えてくれた真実

私がパイロットだった頃、離陸前のチェックリストには30項目近くありました。

「絶対に忘れてはいけない」という項目を、とにかく全部並べたリストです。

すると何が起こったか?

チェックリストをスキップするミスが多発したんです。インシデント(事故につながりかねない事象)も増えました。

会社は何度も「チェックリストは確実に実施するように」と周知しました。でも、治らない。

なぜか?

長すぎるチェックリストで時間がかかる → 時間がないからスキップする

この構造があったからです。

そこで、チェックリストを大幅に見直しました。「絶対に忘れてはいけないキラーアイテム」のみに絞り込んで、5〜6項目だけにしたんです。

結果、チェックリストのスキップは大幅に減りました。

チェエクリストにより、操作のリマインドがなされるので、操作のスキップも大幅に改善しました。

もし「スキップするやつが悪い」「もっと注意しろ」と攻め立て続けていたら、問題は永遠に解決しなかったでしょう。システムの問題として捉えたからこそ、解決できたんです。

しかし、人は「人のミス」を責めるのが好き

「こんな簡単なことを間違えるなんて、気合いが足りない」

「注意不足だ」

「考えが甘い」

人間は、なぜか他人のミスを責めることが好きです。

でも、それは誰にでも起こりうることです。システムがそうである以上、避けられないんです。

本当に責められるべきは、リーダーのミス

では、本当に責められるべきミスとは何でしょうか?

それは、分かっていて見ないふりをすることです。

分かっていて犯すミス

わざとするミス

問題があると分かっているのに、見ないふりをする

これらは、未来を見るべきリーダーが追及されるべきミスです。

「経済効率」という免罪符

経済社会の中では、なぜか「リスクマネジメント」という名のもとに、ミスを防ぐ方策や安全対策を後回しにすることが許されています。

「発生確率が低いから」

「注意しない人間が悪い」

そんな理由をつけて、ミスやインシデントの可能性から目をそらす。

そんなリーダーのミスこそ、糾弾されるべきです。

なぜか日本では、そういうリーダーのミスは「仕方がない」と許されてしまう。

でも、見えないリスクに対処することこそが、リーダーの最も大きな役割のはずです。

あなたに伝えたいこと

もしあなたがミスをして、誰かに責められたなら。

それは、あなたの責任ではありません。

ミスは誰でもします。人間の脳の特性上、避けられないことです。

「もっと注意しないと」と自分を責める必要はないんです。注意だけでは、どうしても限界があるのですから。

そして、もしあなたがリーダーの立場なら。

部下のミスを責める前に、「なぜこのミスが起きたのか?」「システムに問題はないか?」と考えてみてください。

レバーの形を変えるように。チェックリストを短くするように。

「注意しろ」と言う代わりに、注意しなくてもミスが起きないシステムを作ることこそが、リーダーの仕事なのかもしれません。

本当に変えるべきは、人ではなく、システムなんです。

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