· パイロットの目 · 6 min read
普遍的な操縦なんてあるわけない
鹿児島から福岡へ向かう便でのことです。 その日は副操縦士に操縦を任せていました。福岡空港へのアプローチが始まると、彼のプランニングに違和感を覚えました。 降下のタイミング、速度の落とし方、経路の考え方——どれも私のやり方と違う。 鹿児島福岡は30分程度の短い路線です。長年の経験で磨いてきた自分のやり方こそが、最も安全で効率的だと信じていました。
鹿児島から福岡へ向かう便でのことです。
その日は副操縦士に操縦を任せていました。福岡空港へのアプローチが始まると、彼のプランニングに違和感を覚えました。
降下のタイミング、速度の落とし方、経路の考え方——どれも私のやり方と違う。
鹿児島福岡は30分程度の短い路線です。長年の経験で磨いてきた自分のやり方こそが、最も安全で効率的だと信じていました。
「こういうふうに考えた方がいいよ」
そう言いながら、こう付け加えたのです。
「これが普遍的な考え方だから」
数日後、別の副操縦士から聞かされました。
「小野さん、陰で言われてますよ。『普遍的な操縦なんてあるわけないだろ』って」
ゾッとしました。
面と向かって反論されるより、ずっと怖かった。
私は「教えてあげている」つもりでした。でも相手のやり方を頭ごなしに否定し、「普遍的」なんて言葉で自分の方法を押し付けていたんです。
自信がつくと、違和感の意味が変わる
経験を積んで自信がついてくると、不思議なことが起こります。
他人のやり方に「違和感」を覚えるようになる。
リズムが違う。タイミングが違う。自分ならこうするのに——
その違和感を、いつの間にか「相手が間違っている証拠」だと思い込むようになるんです。
本来、違和感は「何かがおかしい」と教えてくれる大切なセンサーです。事故の前兆も、違和感として現れることが多い。
でも自分の慣れ親しんだやり方を「正解」と勘違いすると、そこから外れたものすべてが「間違い」に見えてくる。
「俺のやり方と違う=間違っている」
そう思い込んでいました。
違和感は「問い」だった
今はこう考えています。
操縦には様々な方法があって、それ自体に正解も不正解もない。
大切なのは、目的がはっきりしていること。そして自分の行動を常にフィードバックして、次の操作に活かせること。それさえあれば、アプローチの方法は千差万別でいい。
違和感を覚えたとき、それは「相手が間違っている」というサインではありません。
「自分の前提と違う何かがある」——そう教えてくれているんです。
だから今は、違和感を覚えたら「なぜ自分は違和感を覚えたんだろう?」と自分に問いかけるようにしています。
その問いが、自分の思い込みに気づかせてくれることがある。
「教えてあげたい」は、傲慢の始まり
「教えてあげないと」「正しいことを伝えないと」
その気持ちが湧いてきたとき、少し立ち止まった方がいい。
たいていは、自分の正しさを押し付けようとしているだけです。
「小野さん、勉強になります」——そう言われたかっただけかもしれません。
相手のためではなく、自分が「教える側」でいたかった。
私は長年、その区別がついていませんでした。
何かに「違和感」を覚えるとき。
それを「相手の間違い」ではなく「自分への問い」として受け止めてみる。
そうすると、自分の価値観や前提が、少しだけ見えてくるような気がします。